17 / 32

第6章 アイコン

第6章【仕事の取り方】

「最初の1件、どこから取るか」が個人事業最大の壁です。

ここを5チャネル比較で整理します。「気合いで頑張る」ではなく、 5チャネルから2つを選んで集中 するのが正解です。

6-1. 個人事業の信用ハードル

開業1日目の信用力は、正直 法人より2段下 です。

「法人格でないと取引しない」企業への対応

大手企業の経理規定で「個人事業者は不可」というケースがあります。これを乗り越える3点セット。

対策 内容
① 屋号付き口座 「個人+屋号」名義で振込先を提示
② 簡易サイト+実績ポートフォリオ ペライチ/STUDIOで十分。実績3件で信用UP
③ インボイス登録番号 「Tから始まる13桁」を請求書・名刺に記載

コツ:法人格不可と言われたら、「業務委託契約は個人事業として、振込先は屋号付き口座(〇〇屋号)」と提案。 半分の企業はこれで通る。それでも不可なら、その案件は諦めて次へ

6-2. 案件獲得5チャネル

個人事業が使えるチャネルは5つに絞れます。

チャネル 単価レンジ 立ち上がり速度 副業適合 専業適合 おすすめ業種
①クラウドソーシング 低(月5〜30万) 最速(1週間) △(卒業推奨) ウェブ制作/受託開発/広告運用
②直営業(DM/メール) 中〜高(月20〜100万) 中(2〜3ヶ月) コンサル系/ウェブデザイン
③紹介・リファラル 高(月30〜150万) 遅(半年〜) コンサル系/高単価制作
④SNS集客(X/LinkedIn/note) 中〜高(月10〜100万) 遅(半年〜1年) コンサル系/クリエイティブ
⑤広告(Meta/Google) 中(月20〜80万) 中(1〜3ヶ月) × コンサル系(要ROI管理)

チャネル別歩留まり(リード→受注)

「DMを何件送れば受注になるか」が分からないと、月の活動量が決められません。

チャネル 商談化率 受注率(商談→受注) リード100件で受注
クラウドソーシング 100%(応募即商談) 5〜10% 5〜10件
直営業(DM) 1〜3% 30% 0.3〜0.9件
SNS(DM返信→商談) 5〜10% 30〜50% 1.5〜5件
紹介・リファラル 60〜80% 50〜70% 30〜56件
広告(LP→問合せ) 1〜3% 20〜40% 0.2〜1.2件

フェーズ別の「最初の2チャネル」

最初は1〜2チャネルに絞ります。同時並行で5チャネルやろうとすると全部中途半端になります。

フェーズ 推奨チャネル 理由
0〜6ヶ月(実績ゼロ) クラウドソーシング+エージェント 立ち上がり最速・実績作り
6〜18ヶ月(実績あり) エージェント+SNS発信+直営業 単価を上げにいく
18ヶ月〜(軌道乗り) 紹介+SNS+既存顧客深耕 最高単価の安定供給

6-3. 最初の3件を取る具体スクリプト

「DMを送ったら全員無視されました」——これがほぼ全員の最初です。

問題はテンプレが雑いこと。次の 3つの実例スクリプト を使うと、返信率が体感3倍に上がります。

スクリプト①:クラウドソーシングの提案文(ウェブ制作向け)

[クライアント名]様

はじめまして、ウェブ制作の[屋号]を運営しております[氏名]です。
ご募集の「コーポレートサイトリニューアル」の件、
御社の課題に合いそうだと感じてご提案いたします。

▼ 実績(直近3件)
1. [業種]企業のLP制作(CV率2.1倍)
2. [業種]企業のコーポレートサイト(PV月3万→月12万)
3. [業種]の予約システム導入

▼ 今回のご提案
- 期間:3週間(要件凍結後)
- 工程:①ヒアリング1日 ②デザインカンプ5日 ③実装10日 ④テスト5日
- 金額:35万円(税込)
- 含まれるもの:レスポンシブ対応/お問合せフォーム/GA4設置
- 修正対応:3回まで/4回目以降1回2万円

ヒアリングは無料です。30分のお時間いただければ、
御社サイトの改善ポイント3点をその場でフィードバックいたします。

ご連絡お待ちしております。

[屋号] [氏名]
[サイトURL]
[メールアドレス]

スクリプト②:直営業DM(AXコンサル向け)

件名:御社のAI活用、Difyで30分試作してきました([氏名])

[宛名]様

突然のご連絡、失礼いたします。
AIで一人個人事業をしている[屋号]の[氏名]と申します。

御社サイトを拝見し、[具体的な業務領域]について
AIで効率化できるポイントが3つあると感じました。

▼ 試作してみたもの
[Loom URL or 動画]

10分で動くプロトタイプを組んでみました。
このまま御社の業務で使えるかは別途検討必要ですが、
「AIで何ができるか」のイメージは掴めるかと思います。

もしご興味あれば、30分のオンライン打ち合わせで
①PoC設計 ②本番実装プラン ③費用感
をお話しできます。

[氏名]
[屋号]
[サイトURL]

ポイント:DMで 既に試作物を見せる のが最大の差別化。9割の経営者が「会って話を聞きたい」と返信する

スクリプト③:紹介依頼メッセージ(既存知人向け)

[名前]さん

ご無沙汰しております、[氏名]です。

実は2026年[X]月から、[業種]の個人事業を始めました。
屋号は「[屋号]」、サイトはこちらです:[URL]

[名前]さんは[業界/会社]で多くの経営者・実務家とつながっておられるので、
もし「AIで業務効率化を考えてる」「ウェブ制作を探してる」
といった声を聞かれたら、私を思い出していただけると幸いです。

▼ 私の専門
- [得意領域1]
- [得意領域2]
- [得意領域3]

▼ ご紹介いただいた場合の謝礼
受注金額の10%を御礼としてお渡しさせていただきます。

近々お茶でも!とお声がけいただければ、御礼にお伺いします。

[氏名]

コツ:開業1〜2ヶ月で 20〜30人にこのメッセージ を送る。1人2人は確実に紹介してくれる。最初の3件のうち1件はここから取れる

6-4. 単価設定の根拠

「いくらで受けるか」の決め方は3パターンあります。業種ごとに最適な型が違います。

3パターン比較

パターン 計算式 主な業種 上限単価
①コストプラス 工数 × 時給 ウェブ制作/受託開発/デザイン
②市場相場合わせ 業界相場の中央値 参入1年目の全業種
③バリューベース 顧客の利益 × 一定% AXコンサル/経営コンサル/業務改善

コストプラス(時間×単価)

見積金額 = 想定工数(時間) × 自分の時給単価 + 諸経費

時給単価は 「月の目標売上 ÷ 月の稼働時間 × 1.4(バッファ)」 で決めます。

たとえば月100万円目標で稼働140時間なら、時給10,000円。LP1本(想定25時間)なら25万円という計算です。

市場相場合わせ:参入時の安全策

業種・案件 相場中央値 入門時単価
フリーランスエンジニア月額 78万円 月70〜80万円
LP制作(レスポンシブ) 10〜25万円 18万円
AXコンサル月額顧問(中小向け) 5〜30万円 月20万円
ウェブデザイン月額(中小向け) 30〜80万円 月50万円
広告運用(中小向け) 10〜30万円 月15万円

実績が乏しい0〜6ヶ月の時期、新業種に参入したばかりの時期に最適です。実績が積み上がったら③か①に切り替え

バリューベース:コンサル系の本丸

見積金額 = 顧客が得る年間利益(または削減コスト) × 5〜30%

たとえばAXコンサルで「製造業A社:AI導入で年間人件費1,200万円削減見込み」なら、報酬は1,200万円 × 20% = 年240万円(月20万円顧問)

時間単価の天井を超えられるのが最大の強み。個人事業でも月50〜150万円の案件が成立する唯一の方法です。

6-5. 「松竹梅」3プランで受注率を1.5倍にする

3プラン提示は、受注率を1.5〜2倍に上げる定番テクニックです。

価格設計の黄金比

梅:竹:松 = 60% : 100% : 180%

竹を本命にして、梅は「ここまで削った最低限」、松は「全部入り」で設計します。

実例:AXコンサル提案

プラン 月額 内容
18万円 月1回オンライン顧問1時間+Slack相談無制限
竹(本命) 30万円 月2回オンライン顧問各1時間+Slack相談無制限+月1回PoC支援
55万円 月4回(うち1回オンサイト)顧問+Slack無制限+PoC実装伴走+四半期戦略レビュー

竹プランが選ばれる確率が最も高くなります。松があることで竹が「真ん中で安心」と見える、という心理効果です。

落とし穴:3プランの差額が小さすぎる(例:30万・35万・40万)と、「全部松でいいや」になります。 60%-100%-180%の比率を守る のが鉄則

6-6. 契約条件(フリーランス新法対応10条項)

契約書は「揉めた時に自分を守るもの」です。

個人事業は法務部がない分、雛形に 最低10条項 を盛り込みます。

必ず入れる10条項

# 条項 内容
1 検収日数明記 標準5〜10営業日
2 瑕疵担保期間 Web制作3ヶ月/業務システム6ヶ月
3 損害賠償上限 直近3ヶ月の報酬額
4 知財帰属 AI生成物・汎用ノウハウの取扱い含む
5 再委託 条件付き許可が個人事業には便利
6 秘密保持期間 3〜5年が標準
7 解除予告 月額顧問は3ヶ月前予告が望ましい
8 支払サイト フリーランス新法で60日以内が法定
9 管轄裁判所 自分の本店所在地の地裁を指定
10 フリーランス新法対応 書面交付3条12項目

損害賠償上限の書き方例

第○条(損害賠償の制限)
1. 乙が本契約に基づく義務違反により甲に損害を与えた場合、その賠償責任は、
   損害発生の直近3ヶ月に甲が乙に支払った報酬の総額を上限とする。
2. 乙の故意または重大な過失による場合を除き、間接損害・特別損害・逸失利益等は
   賠償の対象外とする。

上限がないと、過失で大事故になった場合に資産を吹き飛ばされます。個人事業にとっては死活問題です。

知財帰属(AI生成物の特約が2026年の必須事項)

第○条(知的財産権)
1. 本件成果物の著作権その他の知的財産権は、報酬完済をもって甲に移転する。
2. 乙が業務遂行のために独自開発したノウハウ・汎用ライブラリ・AIプロンプト等は、
   乙に帰属する。
3. 本件成果物にAI生成物が含まれる場合、乙は当該AI生成物の利用が第三者の権利を
   侵害しないよう善管注意義務を負うが、AI提供事業者の規約変更等に起因する
   権利関係の変動については保証しない。

「汎用ノウハウ・ライブラリ・プロンプトは乙のもの」を入れないと、次の案件で同じものが使えなくなります。

フリーランス新法 第3条12項目チェックリスト

2024年11月施行のフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、委託者は受託事業者に対して 書面または電子メールで12項目を明示する義務 があります。

# 項目
業務の内容
報酬の額(金額または計算方法)
支払期日(役務提供日から60日以内)
委託事業者および受託事業者の名称
業務委託をした日(発注日)
給付を受領する日(成果物の引渡し予定日)
給付を受領する場所(納品場所)
検査を完了する期日(検収完了予定日)
報酬の支払方法(振込/手形/電子マネー等)
現物給付がある場合の支給日・場所
報酬を減額する場合の根拠
その他厚生労働省令で定める事項

12項目すべての明示が法定義務です。1項目でも欠けると是正勧告・命令の対象となる可能性があります。

6-7. 値下げ要求への返答|「持ち帰り検討」が鉄則

「もう少し下げてほしい」と言われたとき、その場で値段を変えてはいけません。

即決で下げると、相手は「もっと下がる」と思います。

その場で「下げて」と言われた場合

クライアント:「予算厳しいんで、もう少し下げられませんか?」

あなた(即座に):「ありがとうございます。お見積については一度社内(もしくは税理士/パートナー)と持ち帰って検討させていただいてもよろしいでしょうか。明日中にご返答します。」

→ 電話を切る → メールで「条件を変える3択」を送る

メール返答パターン:3択で出す

A. スコープを縮小:成果物Bを次フェーズに分割 → 10%減
B. 検収条件を簡素化:中間レビューを2回→1回に削減 → 5%減
C. 月次顧問を6ヶ月→12ヶ月でご契約 → 月額15%減、年間トータル20%増

「下げる」のではなく「条件を変える」「契約期間を伸ばす」で対応 するのがコツ。3択で出すと「やっぱり最初の提案で」となる確率が30%以上あります。

6-8. 単価を上げる5つのレバー

最初の3件を取った後、単価を上げるレバーは5つあります。

レバー 効果 タイミング
①実績の数で押す 「直近10件で平均CV率〇%」 案件数10件以降
②専門性で押す 「医療業界特化」「製造業DX特化」 案件3〜5件以降
③成果報酬要素を入れる 「成果連動で売上の3%」 既存顧客に対して
④パッケージ化する 「AI業務改善パッケージ50万円」 1年目後半
⑤継続契約に切り替える 単発→月額顧問へ 既存顧客との関係構築後

月額顧問への移行スクリプト

「単発で受けてる案件を月額顧問にする」のは、収入の安定化において最重要です。

[クライアント名]様

[案件名]の納品が完了し、
御社の[業務領域]の改善が一段落したかと思います。

実は、納品後の運用フェーズで「もう少しサポートがほしい」という声を
これまでも多くの方からいただいてきました。

そこで、月額顧問プランをご提案させていただけないでしょうか。

▼ 月額顧問プラン(竹案):月15万円
- 月2回のオンラインミーティング(各1時間)
- Slack/メールでの相談無制限(24時間以内に返信)
- 月1回の改善提案レポート
- 緊急対応(月3時間まで)

単発の改修で都度ご依頼いただくよりも、
月15万円のほうが結果的に安く・早く回せます。

ご検討、よろしくお願いいたします。

[屋号] [氏名]

6-9. 既存顧客深耕|LTVを2倍にする5つの仕掛け

新規開拓よりも、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を伸ばすほうが効率10倍です。最初の3件を取った後、必ずやることをまとめます。

# 仕掛け 効果 実施タイミング
1 月次レポートを毎月送る 信頼維持/追加提案の機会 案件初月から
2 クォータリーレビュー設定 単価UPと長期契約への布石 3ヶ月目/6ヶ月目/9ヶ月目
3 隣接領域の追加提案 クロスセルで月単価+50% 案件3ヶ月目以降
4 紹介依頼を3回/年 紹介率15%→30%へ 半年に1回・案件成功時
5 年末の御礼カード/ギフト 関係性の固定化 12月

「3ヶ月レビュー」のテンプレート

[クライアント名]様

[案件名]の3ヶ月レビューを実施させていただきたく、
30分のお時間をいただけないでしょうか。

▼ レビュー内容
1. これまでの成果サマリ(KPI推移/納品物一覧)
2. 現状の課題3つ(御社視点/私視点)
3. 次の3ヶ月でやれること3案
4. 契約条件の調整余地(単価/稼働時間/スコープ)

特に「次の3ヶ月でやれること3案」は、
①現状継続 ②領域拡大 ③深化版 の3パターンで作っております。

[屋号] [氏名]

コツ:3ヶ月レビューは 単価UPの定型タイミング。「現状継続」と並べて「領域拡大(+月10万円)」「深化版(+月20万円)」を提示すると、3〜4割で追加契約に進む

6-10. 営業の月次パイプライン管理

「いま何件案件があるか」をリアルタイムで見える化していないと、案件の波に振り回されます。HubSpot無料CRMで十分なので、今日から導入を推奨します。

パイプラインの確度別管理(A/B/C)

確度 状態 アクション
A:高(80%以上) 見積提出済/契約書ドラフト 1週間以内のクロージング
B:中(30〜80%) 商談済/提案書送付済 2週間以内のフォロー
C:低(30%未満) 初回問合せ/DM返信 1ヶ月以内に商談に持ち込む

月次の最低必要件数(年商1,000万円目標)

段階 月の活動量 月の歩留まり
Cの新規リード 月20件 A確度に2件転換
Aの商談 月4〜6件 受注2件
受注 月2件(平均40万円) 月商80万円

コツ:HubSpotの 「Deals」機能 で案件を5列(リード/商談/提案/契約/受注)に並べる。毎週月曜の朝1時間で更新する。これだけで案件管理の精度が3倍上がる


17 / 32